別なデータを使って検証しても、“思い込み”があることが確認できないという結果は同じでした。
やり方はいままでと同じで、×型の特徴だと回答した割合と、実際に出た血液型による回答の差を比較してみたものです。
もし、血液型の差が“思い込み”によるものだとすると、×型の特徴だと回答した割合と、回答率の差はほぼ比例するはずです。しかし、現実はそうではありません。ここでは、A型とB型の差について分析した結果を示します。
【A型の特徴だと回答した割合】
山崎賢治・坂元章 血液型ステレオタイプによる自己成就現象-全国調査の時系列分析- 日本社会心理学会第32回大会発表論文集 pp.288-291 1991年
※美術大生の調査 回答者82人
【血液型による回答率の差:A型 vs B型】
松井豊 血液型による性格の相違に関する統計的検討 東京都立立川短期大学紀要 Vol.24 pp.51-54 1991年
※4年分のデータの平均を算出した 回答者延11,766人
結果は次のグラフのとおりです。
A型の特徴だと回答した割合と、実際に出た血液型による回答の差は、一部の「有名な特徴」(赤で囲んだ部分)以外は統計的に有意ではないようです。
実は、このことは、昔から心理学者に指摘されていました。
各血液型の特徴で、普通の人が覚えているのはせいぜい数個に限られ、普通は「コア」となる2、3個しかありません。他の特性は、これらの中心となる特徴と関連付けて覚えているようです。たとえば、松井豊さんさんと上瀬由美子さんは、こう述べています(松井豊・上瀬由美子 血液型ステレオタイプの構造と機能 聖心女子大学論叢 pp.93 1994年)。
佐藤・渡辺(※)は、血液型ステレオタイプの内容は、もはや能見や古川のものとは離れ、それぞれの血液型について核になる特性が存在し、それを中心に全体の内容が形成されていると指摘している。ただし、彼らの指摘は回答者の自由記述を分類する形の分析結果に基づいているため、数量的・客観的検討が不充分と考えられる。 |
※佐藤達哉・渡辺芳之 現代の血液型性格判断ブームとその心理学的研究 心理学評論 Vol.35 pp.234-268 1992年
別な論文にもこうあります。
個人が持っている信念の内容のうち、通説と一致しているのは約4~5割であり、残りの5~6割は通説とは異なった内容で構成されていることが示されている。 個人が持っている信念の内容のうち6割強は一致していないことがわかった。 |
※渡邊席子 血液型ステレオタイプ形成におけるプロトタイプとイグゼンブラの役割 社会心理学研究 Vol.10(2) pp.77-86 1994年
これはどうかというと、基本的に“思い込み”は存在しないということです。
その特性がある血液型にあてはまると判断されても、差が出ないケースが少なくありません。
繰り返しになりますが、“思い込み”があるとするなら、「その特徴がある血液型にあてはまると回答する割合」と「実際に出た回答の差」は比例するはずですが、現実にはそうなっていないのです。
たとえば、A型だと、「何かをする時には準備をして慎重にやる」では差が出ても、「どちらというと引っ込み思案だ」には差が出ていません。後者は、前者の特性から連想して覚えているということになります。
やはり、血液型は奥が深いようですね。
なお、これらの「コア」となる特性は、比較的簡単に覚えられるもの(神経質、マイペース、おおらか、二重人格 etc.)に限定されるようです。
参考までに、下のグラフは2008年のスタレオタイプ(血液型の性格イメージ)の調査結果です。
出典:文教大学情報学部 社会調査ゼミナール研究報告 性格と恋愛にみる血液型効果 情報学部広報学科3年 松崎宏美 2008年2月 (PDF)
1991年の調査でも、2008年の調査でも、ほとんど結果が変わっていないことがわかります。
2019.10.5 更新
このように、その特性がある血液型にあてはまると判断されても、現実に差が出ないケースが少なくありません。
その理由は、血液型の特徴は「有名な特性」に関連付けて覚えられている、つまりハロー効果のためだとすると、これらの現象をうまく説明できます。
ハロー効果というのは社会心理学の用語で、ある対象を評価するときに、それが持つ目立つ特徴に引きずられて他の特徴についての評価が歪められてしまう現象のことです。
2019.12.8追記
ちょっと気になったので、山岡重行さんの28の質問項目から、血液型が好きな人に特徴的な傾向を調べてみました。
差があることが確実なものは次のとおりです。
※28項目の多重比較を考慮した場合でもt検定で有意→p<0.05
以上のことから、血液型が好きな人の傾向としては、社交的ということもありますが、基本的に人の性格に興味を持っているということが言えます。
つまり、血液型で差が出ないと思っている人は、人間の性格にあまり興味がないから差が出にくい、ということになります。
「思い込み」論争は既に終了しているのですが、これまたそれを裏付ける結果となりました。
【計算方法】
元データ:山岡重行「ダメな大人にならないための心理学」
この山岡氏のデータのうち、血液型による「有意差がない」質問項目に限定して、血液型が好きな人(高受容群649人)と、そうでない人(低受容群651人)とに分けてt検定を行いました。血液型で差が出た項目を除いたのは、血液型自体の影響を排除するためです。
なお、比較対象は、各血液型回答の単純平均ではなく、人数による加重平均です(t検定を行うため)。
2019.10.5 更新 2019.12.8追記